アルゼンチンのエネルギーおよび鉱物資源事情
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| 1.エネルギー | |
| (1)経済危機と価格統制 | |
| 現在、中央政府のドル買い介入により為替が1ドル=約3ペソに維持されている。これにより、輸出競争力の維持には成功しているが、当然、インフレには悪 影響。そのために、政府は、強制的な価格統制を行っており、とりあえずそれに成功している(現在の消費者物価の伸び率は約10%)。電力価格の統制はその 一貫である。 90年代にアルゼンチンの発電事業は参入が自由化されており、経済危機までは、電力価格もマーケットで(大口需要家との相対の契約であるいは限界費用に 相当する価格で)決められていた。これが、経済危機以降、政府により統制されており(緊急事態措置法、2002年1月)、原料(ガス)価格+O&Mコスト +マージンとして認められる価格に設定されている。(図表1参照)しかも、マージンの65%が後述のFONINVEMEM基金に積み立てられているため、 実際には、発電事業者は運転していくのがやっとの状況である。 | |
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| (2)電力危機 | |
| 経済危機以降、電力価格が統制されたため、新規の発電所建設は進まなかった。しかし、経済は、2002年はマイナス成長であったものの、2003年以降、 約9%の成長を続けており、それに伴って電力需要も急増している(危機前の需用は12,000MW→現在17,500MW)。政府の説明は、キャパシティ は24,000MWで十分であるというものであるが、水力発電は雨次第であるので、このうちファームなものは18,000MW。需用は、3月に入って 17,500MWまで達した。通常、20%のバッファーが必要なので、約4,000MW不足していると考えられる。 民間投資が進まない中で発電所建設が政府主導で進められたが、その際のスキームがFONINVEVEMである。 | |
| (3)FONINVEMEMプロジェクト | |
| 発電事業者は、早期に電力事業の規制枠組みの正常化(1992年~2002年の電力市場に戻ること)を望んだ。「Compromise」(省令1427 号、2004年12月)は、政府と事業者との間の対立をこれ以上深めないために結ばれた合意。具体的には、発電事業者は、①自分たちのマージンの65%を 新規プロジェクトに出資する。②新規プロジェクトをマネージする。これに対して、政府側は、①新規発電所の入り口までガス供給の責任を負う、②資金調達の 責任を負う。③新規発電所がフル操業した場合には、価格統制を解除する。 上記の65%(2004年~2006年の約3年間で5億ドル)、さらに、需要家への30%のサーチャージ(2006年~2010年の約5年間で4億ド ル)を基金に積み立て、総額8億ドルの発電所建設(800MWの天然ガス炊きコンバイドサイクル2系列)のための資金とする、というのが、 FONINVEVEMプロジェクトである。上記合意に基づいて、二つの新会社が設立された(マニュエルベルグラーノ(筆頭株主はエンデサ)およびホセサン マルティン(筆頭株主はトタール))。建設がはじまってから基金が積みあがるまでの間のブリッジローンの手当てが必要であるが、ほぼ全額キャッシュで発電 所を建設することになる。現在、建設資金が増大したのでそれを賄うための手当てやブリッジローンの具体策が検討されている。昨年8月、入札が実施され、 シーメンスが落札した。 | |
| (4)価格統制の解除 | |
| 2006年に発表された「エネジープラス」というスキームにおいては、2005年末の実績を超える電力供給については、それが電力事業者の増産(当然、発電所の新規立地を含む)により賄われる場合には、電力事業者が大口需要家と自由に価格設定できることとなった。 実際、「エネジープラス」に基づいて、いくつかの民間の発電所建設計画が発表されている。既存の火力発電所の発電容量を増加する(単なる蒸気タービンをコ ンバイドサイクルにする)ものとしては、信託基金であるパンパホールディングのCentral Loma De La Lata発電所(185MW拡大、ネオケン州)とGuemes発電所(260MW→360MW)とがある。新規発電所としては、Sadesaの Puerto火力発電所(500MW、ブエノスアイレス州)やリマイ川(メンドーサ州)の水力発電所(400MW)がある。ただし、いずれもまだ、計画段 階である。 政府は、FONINVEVEMの発電所が稼動し(2009年春頃)、需給が正常化した際には、既存の発電所についても価格の統制が解除されることになっ ている。発電事業者の販売価格は、2002年以降、徐々に引き上げられている(図表1参照。US$/MWHで、2001年:$25→2002年: $8→2003年:$13→2004年:$18→2005年:$22→2006年:$30→2007年:$35~40)。電力分野の正常化(価格統制の解 除→民間投資が進む)が近づきつつある。 | |
| (5)ガス供給 | |
| 石油・ガスは、価格が統制されている。政府の統制前の2001年:$1.4/mbtu→2002年:$0.48→2004年:$1→2006年以降: $1.7(国際価格、例えばボリビアから輸入しているガスの価格は$5)。「価格が規制されていることから投資が進まず、確認埋蔵量が減少している」とい うのが、投資家の説明。これに対する政府側の説明は、「国内マーケットのガスは、国際マーケットのガスと異なり、液化施設も不要で輸送費や開発費も安いの だから、価格が同等でなければならない必要はない。現在の価格は経済危機前のマーケット価格を超えるものであるので、販売価格が安いから開発が進まないと いうことではない。要は、ガス開発に係る「レント」(剰余価値)を民間(開発者)がとるか政府がとるかというかけひきが行われているだけである。」という もの。 国営石油会社(エナルサ)と民間(レプソル、トタール、ペトロブラス)との合弁事業もやっと探査が始まったところ。 アルゼンチンはボリビアから770万m3/日のガスを輸入しているがこれを2,700万m3/日に拡大することになっている。価格は、昨年6月の価格協 定で、3.2ドル/mbtuから5ドルに引き上げられている。ちなみに、チリのエネルギー需要の3割は天然ガスで占められており、その全量がアルゼンチン からのパイプラインによる輸入で賄われている。アルゼンチンは国内消費を優先させるためチリへの輸出を制限し始めている。 | |
| 2.鉱物資源 | |
| (1)93年鉱業投資法 | |
| 鉱山会社は、鉱業投資法(Mining Investment Act, 93年制定、No. 24.196、2001年に法25.429により改正される)に基づき、ロイヤリティに上限が設定されるとともに、税負担や為替規制が30年間固定される という恩典(Fiscal Stability)を受けることができる。具体的には、鉱業投資法を施工する州は3%を超えるロイヤリティを徴収することができない。また、フィージ ビィリティスタディをNational Mining Authorityに登録すれば、その時点での税負担(連邦政府、州、市)が30年間固定される。同期間、関税および為替規制も強化されない。ただし、為 替レートについては、このような規制固定の恩典の対象外である。 本法律に基づいて、アルゼンチンの代表的な鉱山Bajo de la Alumbrera(銅、金:カタマルカ州)とCerro Vanguardia(金、銀:サンタクルス州)が一部プロジェクトファイナンス方式で資金手当てされ(それぞれ$670m、$135m)、開発が始めら れたわけである。 さて、このような恩典が経済危機下でも果たして維持されたのであろうか。ここでは、特に、「為替規制の固定」の恩典が、経済危機下でどのように維持されたのかの経緯を子細に追ってみる。 | |
| (2)経済危機と鉱業法 | |
| 2001年から2002年にかけての経済危機において外貨繰りに困ったアルゼンチン政府は、外貨規制を再導入する。具体的には、2001年12月5日、 輸出により取得した外貨はすべて国内に持ち込み国内通貨(ペソ)に交換する(ペソ転する)規制が導入される(Decree 1606/2001)。ペソ転規制は、1964年に導入され(Decree 2581/1964)、1991年に廃止されていた(Decree 530/1991)ものである。6日後の2001年12月11日には、過去に認められた恩典(ペソ転しなくてもいいという恩典)は引き続きこれを認める Decree 1638/2001が出される。ここで、Decree1606が鉱業投資法に適合するように修正されたわけである。 ところが、Decree1638が Decree1606の効力をひっくりかえせるかどうかについて、中銀(ひっくり返せない)と鉱業庁(ひっくり返せる)との間で議論が起きた。この議論 は、両Decreeの根拠法が異なることから生じた。すなわち、憲法99条1項(通常の行政府の規則制定権)に基づくDecree1638が憲法99条3 項(非常事態における法律に準ずる効力を有するDecree制定権)に基づくDecree1606の効力をひっくり返せるか、簡単に言ってしまえば、「規 則」が「法律」の効力をひっくりかえせるか、が議論になったわけである。いったんは、両Decreeの発議官庁である経済省が鉱山資源庁を支持する見解 (ひっくり返せる)を出したが、2002年9月、Federal Legal Counsel(日本の内閣法制局長官に相当)が中銀を支持する行政内最終解釈(ひっくり返せない)を出してしまう。結局、2003年2月に鉱山資源庁の 主張を支持するDecreeが再度発出されて(憲法99条3項に基づくDecree417/2003)、本問題は最終的に決着する。Mining企業の Fiscal Stabilityは守られたわけである。 実際、輸出組合その他へのヒアリングによれば、2001年12月のデフォルト発生以前に契約されていた案件で、2001年12月のデフォルト発生以降、ペソ転規制の免除が認められなかった事例はないとのことであった。 | |
| (3)開発の進展 | |
| 生産は、92年の$0.4b→98年の$1.1b→05年の$1.5b、輸出は、91年の$10m→04年の$1.8b→05年の$4.6b→06年 $7.95b、投資は、03年の$220m→04年の$623m→05年の$960m→06年の$1,270m、いずれも90年代前半以降、ほぼ一貫して 拡大しつづけている。(図表2参照) | |
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| 3.気付きの点 | |
| (1)移行期の統制的な仕組みへの評価 | |
| FONINVEVEMスキームによる発電所建設については賛否両論あろう。例えば、IDBは、持続的なスキームではなく支援していない。発電事業者も、 このようないわば投資判断を強制されたスキームは二度とごめんだということのようである。他方、経済危機を克服する過渡的な状況に鑑みれば、よくできたス キームだと言える。実際に、本スキームによる発電所建設については入札が行われ、シーメンスが落札し、建設がはじまっている。 | |
| (2)政策の有効性 | |
| 同じ資源分野でもあるにかかわらず、鉱業は経済危機の影響を受けずに拡大したのとは対照的に、エネルギー分野は価格統制の対象となり投資が進まなかった。 石油・ガスが国内マーケット用(優先)とされたことに尽きると言ってしまえばそれまでであるが、鉱業を輸出産業として発展させようとした90年代の鉱業資 源庁の制度整備、それに加え、経済危機時にもその政策を貫こうとした努力に負うところが大きいのではないか。 | |
| (3)ソフィスティケイトされた法環境 | |
| 経済危機時の為替規制をめぐる論争を見ると、中銀が外貨の蓄積を目指し、鉱業資源省が投資促進を目指し、Federal Legal Counselが法的整合性を確保し、という具合に、中銀、鉱業資源省、Federal Legal Counselの三者が三様の自己の役割を忠実に果たし、かつ、妥当な結論を導いていることが分かる。アルゼンチンの行政組織や法環境はそれなりにソフィ ストケイトされていると言えないか。 | |
| 最後に | |
| これまでの決まりやオーソドックスな経済理論をひとまずおいて、現状を子細に見れば、比較的リスクが低く通常の貿易保険のプラクティスからいっても引受可 能な分野が、「一般的に引受不可能」とされてしまっている国にもあるのではないか、というのが2005年の問題意識であった。私どもは2006年1月にア ルゼンチンの民間セクター(特に輸出企業)向けのカバーを再開したところであるが、その時期が適切であったかどうかは貿易保険の利用者の皆様を含め関係者 の評価にゆだねられる。私どもとしては、子細な現状把握に努め、より機動的な貿易保険の運営に努めて参りたい。◆ | |
独立行政法人 日本貿易保険 ニューヨーク事務所 所長 小野 洋太
情報リンク:日本貿易保険
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